ABOUT CARE 高血圧症

実は奥の深い疾患高血圧

高血圧は良く聞く疾患名ですが、実は奥の深い疾患です。高血圧症は初期から症状が出ることはほぼありませんが、放置すると全身の臓器に影響が出ることで様々な症状が出てきます。

血圧がどれくらいから高血圧ですか?

診察室でときどき「血圧の基準は上の血圧は年齢+90ですよね?」と言われます。巷のインターネット記事でも同様の記載が溢れています。ただ、我々が普段診療で参考にする診療ガイドラインでは診察室血圧が 140/90 mmHgを、家庭血圧が 135/85 mmHgを超えたら、高血圧と診断します。そして、降圧目標は、基本的に75歳未満では診察室血圧 130/80未満(家庭血圧 125/75未満)、75歳以上では診察室血圧 140/90未満(家庭血圧 135/85未満)です。腎臓病など併存疾患がある場合には少し異なりますが、これら数値が診療の基本となります。

高血圧症には様々な原因があります

高血圧症は、本態性高血圧と二次性高血圧症に分類されます。一般的な「高血圧」は本態性高血圧で、高血圧症の人のうち10%から20%が血圧上昇の原因がある二次性高血圧症と考えられています。診断には血液検査や尿検査などを行います。また原因によって画像検査など追加検査を行います。関連する検査の心臓超音波(心エコー)、頸部血管エコー、腹部エコー(腎動脈エコー)は当院にて検査可能です。

主な二次性高血圧症の原因

● 腎実質性高血圧

  • 腎臓病、糖尿病、膠原病などの基礎疾患を原因に腎障害をきたしている際に、糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎、腎硬化症、多発性嚢胞腎によって、腎臓実質(腎血管以外の腎臓)の障害を来たし高血圧になることがあります。
  • 二次性高血圧のなかでは最も頻度の高く、全高血圧の2〜5%を占めます。

● 腎血管性高血圧

  • 腎動脈の狭窄(原因は動脈硬化、線維筋性異形成、解離性大動脈瘤、褐色細胞腫、転移性腫瘍など)により、腎臓からレニンというホルモンが分泌され、末梢血管収縮や、血中のカリウムを排泄し、ナトリウムを保持させる作用のあるアンジオテンシンⅡが産生され血圧が上昇します。
  • 腎血管性高血圧症は全高血圧患者の1%を占めるとされており、あらゆる年齢で発症する可能性があります。

● 原発性アルドステロン症

  • 副腎から昇圧作用のあるアルドステロンと呼ばれるホルモンが分泌される病気です。血管傷害が進行して、脳卒中や心不全、腎不全の発症リスクが高まります。
  • 全高血圧の10%程度

● 睡眠時無呼吸症候群

  • 睡眠時に低酸素状態にさらされて血圧上昇につながる。

Click ➡ 睡眠時無呼吸症候群の検査・治療についてはこちら

● 褐色細胞腫

  • 交感神経に働きかけるホルモンであるカテコラミン(アドレナリン、ノルアドレナリンなど)の産生能を有する腫瘍で高血圧を来たします。主に、腎臓の上に位置する副腎の髄質から発生しますが、まれに副腎の外(頸部・胸部・膀胱付近などの傍神経節)に発生することもあります。
  • 全高血圧の0.1%-0.2%

● クッシング症候群

  • 血圧を上げるホルモン(コルチゾール)が過剰に作られる。
  • 全高血圧の0.1%以下

高血圧の治療

二次性高血圧は対応可能な原因であれば、根本原因に対するアプローチを行います。その上で高血圧の管理は、減量・減塩・禁煙などの生活習慣の改善を行い、必要に応じて薬物療法を行います。

生活習慣の改善について

  • 減塩:食塩摂取量 6g/日未満
  • 肥満の予防や改善:体格指数(BMI)25.0 kg/m2未満
  • 運動:毎日30分以上または週180 分以上の運動
  • 食事パターン:野菜や果物、 多価不飽和脂肪酸を積極的に摂取し、 飽和脂肪酸・コレステロールを避ける
  • 節酒:アルコール量で男性20~30 mL/日以下、 女性10~20 mL/日以下
  • 禁煙:喫煙のほか間接喫煙(受動喫煙)も避ける
  • その他:防寒、ストレスの軽減

アルコール量20-30mlとは、おおよそ日本酒1合、ビール500ml、ワイングラス2杯、焼酎0.5合、ウィスキー、ブランデーはダブル1杯程度です。

生活習慣の改善に保険適応のアプリもあります。

最近、禁煙治療用アプリ、高血圧治療補助アプリ、減酒治療補助アプリなどスマートフォンアプリを用いた治療が出てきています。当院でも保険適応の高血圧治療補助アプリを使用した生活改善指導が可能です。すでに薬物療法を開始している方でも利用は可能ですので、診察室でお気軽にご相談ください。

降圧薬について

使用薬剤は多岐にわたりますが、以下のいずれかのカテゴリーに分類されます。ほんの一部ですが、薬剤名も例示いたします。

  • カルシウム拮抗薬:アムロジピン、ニカルジピンなど
  • アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB):オルメサルタン、アジルサルタンなど
  • アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI):ぺリンドプリルなど
  • 利尿薬:トリクロルメチアジドなど
  • アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI):サクビトリルバルサルタン(商品名エンレスト)
  • ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬:エサキセレノン(商品名ミネブロ)など
  • β遮断薬:ビソプロロール、カルベジロールなど
  • α1遮断薬:ドキサゾシンなど

複数薬剤で治療する場合は、異なるカテゴリーの薬剤から1剤ずつ選択して治療することが多いです。

医療機関を受診すると内服薬を勧められ、飲み始めるとやめられないと思っている方が多いですが、すべての高血圧の方がそうなるわけではありません。高血圧症に起因した合併症予防のためにも一度当院にご相談ください。

文責:小西弘樹 日本循環器学会 循環器内科専門医